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2021年 4月 知っていますか?顎関節症

先月のトピックスはTCHについてでしたが、その中でTCHが顎関節症に影響しているというお話をさせていただきました。 では、皆さん「顎関節症」についてどの位ご存知でしょうか?

最近はテレビの健康番組で取り上げられることも多く、なんとなく言葉は聞いたことはある、という方も多いと思います。なんとなく「顎の関節から音がしたり、咬み合わせが悪いまま放置しておくと、顎関節に痛みが出て口が開かなくなる病気」といったようなイメージを持たれているのではないでしょうか。

 

確かにこのような経過をたどることもありますが、「顎関節症」とは本来、

  ・顎関節から音がする

  ・顎が開きにくい・閉じにくい

  ・顎関節や周りの筋肉に痛みがある

上記の症状がどれか一つ、または複数が、継続的にある状態を指します。 つまり、医学的には「音がする」だけの場合でも顎関節症ということになります。当然、音がするだけなら、生活に支障はありませんし、これといった治療も必要ありません。

 

何が言いたいのかというと、かならずしも「顎関節症」=「治療の必要な病気」、ではないということです。 もちろん顎関節症の症状のなかでも痛みや口が開かないなどの重い症状がある場合には、原因を探して症状を緩和する必要があります。

 

ここで、顎関節症の原因ですが、テレビでいわれるような咬み合わせの問題は確かに顎関節症の原因のひとつではありますが、主要な原因ではないというのが、最近の考え方の主流になってきており、かみ合わせの調整のために歯を削ったりするような不可逆的な治療(一度行うと元に戻せない治療)は第一選択すべきでないとされています。

 

少しわかりづらいので例をあげながら説明していきます。

 

ある患者さんが右顎の関節に痛みを訴えて来院したとします。

問診では右の歯ばかり当たって、左の歯は上下うまくかみ合っていないような気がするので、物を噛むのも主に右で咬んでいるとのこと。肩こりもひどいともことでした。

診たところそれほど、歯並びの悪くありませんでしたが、咬合紙(上下の歯の接触点を調べる紙。接触している部分に色がつく)を咬んでもらってみると、確かに右の方が少し強くあたっているようです。それならばと右の歯を少し削って、左の歯が当たるようにすると、どうでしょう?

確かに右の歯を削って短くすれば、左の歯が当たりやすくなります。患者さんは満足して帰られますが、しばらくすると、また顎の調子がおかしい、右顎関節が痛いと来院されます。ここで、歯を削る調整をどんどん繰り返すと右の歯の長さは短くなる一方で、だんだん左右のバランスが合わなくなっていきます。一度削った歯は戻せませんので、今度は左も削ってみます。ますます奥歯は短くなり、左にも痛みがでて、どこで咬んでいいかわからなくなります。

 

なぜ、こんなことになってしまったのでしょう?

 

そもそも、咬み合わせの違和感と顎の痛みがいつぐらいから始まったのかを知る必要があります。 患者さんによると一ヶ月くらい前から咬み合わせに違和感を感じるようになり、だんだん左が咬みにくいので右でばかり噛むようになって、1週間くらい前から顎の痛みが出始めだんだん強くなってきたとのことです。

咬み合わせの違和感を感じる直前に、虫歯の治療などで歯や咬み合わせの環境が変わるようなことはなかったそうで、それ以前には特に顎関節にトラブルが起こったことはないそうです。 もともと咬み合わせが悪かったのが原因なら、長年問題の無かった歯に急に症状が出てきたのは説明のつかないことです。

 

もう少し、患者さんに話を聞く必要があります。

肩こりについて聞いてみました。

同じく一ヶ月くらい前からで、ちょうどその少し前に仕事を変わったせいかとも思ったが、仕事終わりだけでなく、朝起きたときにも肩から首にかけて凝っている感じがするとのこと。

新しい仕事は事務仕事でほぼ一日同じ姿勢でパソコンを使っているそうです。

 

転職と寝起きの凝り、これは要チェックです。

歯ぎしりや食いしばりなどの習癖について聞いてみました。

最近家族に歯ぎしりが気になると言われたそうです。新しい仕事でストレスがたまっている様子。 お口の中を確認すると頬の内側に歯の型がついています。

 

ここまでのお話を整理していくと、ひとつの仮説が成り立ちます。

 

一ヶ月まえの転職で新しい仕事に慣れないストレスで歯ぎしりがおこっている。寝起きの肩凝りは歯ぎしりが原因。頬の内側の歯の型からすると元々TCHがあった可能性もあり。(元々TCHがある場合、ちょっとしたきっかけで歯ぎしりや食いしばりに移行しやすい) またパソコンに向かって一定の姿勢で長時間過ごすことにより、一部の筋肉のみが常に緊張状態にある。(どの筋肉かは人それぞれだが、大抵の人は利き手や利き目があり、左右どちらかに偏りやすい)

この患者さんの場合は主に右を使っており、夜間の歯ぎしりも手伝って、右の顎関節の周りの筋肉が無意識に常に緊張して常に縮んだ状態だったため、顎が右に引っ張られていた。

 

結果、右の歯ばかりあたってしまった上、右でばかり噛むことでさらに右の顎関節に負担がかかり、痛みを発生していたと考えられます。

 

さらに、このまま歯ぎしりがひどくなって歯が磨り減って短くなると、短くなった部分で咬み合わせようとする分、顎は短い部分に片寄せて噛むようになりますので、顎の位置はもっとズレていきます。

もう、お気づきかと思いますが、前述の右の歯を削って調整しても症状を繰り返してしまうというのはこういうことです。

 

ですので、この場合の治療の第一選択としては運動療法・スプリント療法などが推奨されます。

スプリントとは睡眠時に装着するマウスピースで歯ぎしりによる顎関節の負担を軽減するためのものですが、重要なのはむしろ歯ぎしりをしなくてすむような環境をつくってあげることです。筋肉のストレッチやマッサージなどの運動療法で凝りかかまった筋肉をほぐたり、気分転換などでストレスをためないようにすることで、多くの症状は改善します。TCHの習癖改善は特に有効です。(先月のトピックス参照)

こういった方法でも改善が見られず、明らかに咬合に異常が見られた場合に、はじめて咬合調整を行います。しかし、一同削った歯は元には戻りませんので、細心の注意が必要です。同様に、スプリントも症状が緩和すれば使用を中止しましょう。かみ合わせの面にのせるように装着するスプリントは、顎関節の負担を軽減するのには有効ですが、歯ぎしりや食いしばりの防止にはなりませんし、スプリントごと食いしばることで、それ自体がかみ合わせに影響をおよぼすことがあるので、特に痛みなどの問題が無い場合に、あまり長期に使用し続けるのは注意が必要です。

 

さて、ここまでお話した例は顎関節症のひとつのパターンですが、比較的多く見られるパターンです。 ここでは主なきっかけは歯ぎしりと片咬みでしたが、食いしばりや、先月お話ししたTCH=歯列接触癖(物を噛んでいるとき以外にも上下の歯を接触させる癖)も要因となります。

いずれも、顎周りの筋肉の異常な緊張によって、顎関節の内部が圧迫されて痛みを発生します。 顎関節の内部には関節円板という軟組織や神経の束が入っています。神経が圧迫されば直接痛みを発しますし、関節円板が圧迫されると、クリック音・開口障害・運動障害などさまざまなパターンの症状がおこります。 これが顎関節症の正体なのです。

来月はそのあたりのメカニズムついてもう少し詳しくお話していきたいと思います。