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2021年 3月 歯列接触癖-TCH-

昨年12月・1月と歯やあごに影響を及ぼす癖についてお話してまいりましたが、今月はシリーズ第三弾、「歯列接触癖」についてのお話です。

第一弾の「歯やあごに影響を及ぼす癖」でも少し触れましたが、近年、顎関節症の原因のひとつとして最も重要視されているのが、歯列接触癖(TCH)です。まだまだ一般的にはあまり認識されていませんが、テレビ番組等でも紹介されるなどして、やっと少しずつ浸透いているようです。

歯列接触癖、=TCH( Tooth(トゥース) Contacting(コンタクティング) Habit(ハービット))

読んで字のごとく、歯を接触させる癖です。(Tooth(トゥース)=歯  Contacting(コンタクティング)=接触  Habit(ハービット)=癖) 「歯を接触させる」とはどういうことかといいますと、まず人間は噛んだりしゃべったりしている時以外の、安静な状態では、上下の歯は接触していないのが正常なのです。(上下の歯が咬みあって接触するのは、物を噛むときと会話で「ジ」や「ズ」・「チ」などの一部の音を発音する時で、一日のうちの歯の接触時間をすべて合計しても20分程度です。) そんなこと自体考えたこともないという方がほとんどで、何が正常かも認識されていないのが現状ですので、下の図をご覧ください。

               

 

 

右図のように歯列のどこか一部でも接触している箇所があれば、たとえ力を入れて咬んでいるのでなくてもTCHがあることになります。

一度、唇をとじて楽な姿勢で立ってみてください。どうでしょう?どこか接触している部分はありませんか? 前歯、または奥歯の一部、右または左だけという場合もあります。 TCHは食いしばりと違い、ごく軽く接触しているだけなので、たいていの場合本人に自覚はなく、常にその状態で長年生活してきているので、それが普通だと思っている方がほとんどです。

「接触しない」といわれてもすぐには納得できず、周囲のほかの人に聞いて自分と違うと知り、初めてびっくりする方もおられます。 また、「それでは、そのまま楽な姿勢で、歯を少しだけ開いてみましょう」というと、歯だけでなく唇も開いてしまうというのも、TCHのある方に多く見られる特徴です。

特にどこも接触してなければTCHはないことになりますが、仕事中や緊張時に限定して現れる「隠れTCH」の場合もよくありますので、肩こりや顎関節に気になる症状のある方は注意してみましょう。

 

TCHの害

1、顎関節症

上図のとおりTCHがあると、顎関節が常に圧迫されています。 顎関節の内部には関節円板と呼ばれる軟骨が入っており圧迫を受け続けることで、磨り減ったり、位置がずれたりして、音がするようになったり顎の動きがおかしくなってしまうことがあります。 また顎関節内の後ろよりの部分には神経の束が通っており、やはり、圧迫され続けると痛みを発します。これがいわゆる顎関節症です。

TCHがあれば、必ず顎関節症になるというわけではありませんが、リスクは高くなりますので、注意が必要です。あまりに長年にわたって顎関節が圧迫されつづけたことにより、関節の部分の骨がすり減ってしまう場合もあります。

 

2、肩こり頭痛・歯痛

顎まわりの筋肉が常に緊張しつづけているため、筋肉が疲労し、肩こりや頭痛を引き起こしてしまいます。

当院の患者さんの中にもTCHのある方はひどい肩こりを併せもっている方が多く、肩こりがひどくなると頭痛もしてくるといいます。 咬む筋肉というと顎の横のえらの部分の筋肉(咬筋)だけかと思いがちですが、頭の側面にある側頭筋という筋肉も咀嚼時につかう筋肉のひとつです。 咀嚼筋が疲労してくると、それらをささえている肩や首の筋肉も疲労してくるのです。

また、意外なところで、顎周りの筋肉疲労がたまると「筋・筋膜痛」と呼ばれる筋肉にしこりのある痛みを発症することがありますが、この場合、その筋肉と同じ神経でつながっている部分の歯が痛くなることがあります。

重く鈍い痛みが特徴で、主に食いしばりや歯ぎしりによる筋肉疲労が原因とされていますが、TCHも同じく慢性的な筋肉疲労を引き起こしますので、隠れた原因と考えられます。

 

3、歯並び・咬み合わせ

TCHのある方では顎が左右、または後方にずれている場合も多く見られます。TCHによって顎が常に一定の方向に引っ張られているので、顎の位置がズレてかみ合わせが悪くなっているのです。

この場合、矯正治療で歯並びを治して、顎の位置を治そうとしても筋肉の引っ張る力には勝てませんので、治療も上手く進みません。 また、局所的には、接触している歯が常に押さえられている状態ですので、歯列から引っ込んでいたり、その部分の歯を動かそうとしてもなかなか動かなかったりします。 反対に、歯の動きが悪くて治療の長引いていた患者さんをよく調べてみると、TCHがあることがわかり、TCHの改善とともに治療が驚くほどはかどることがあります。 顎のズレだけでなく、全身的にも、猫背や肩の高さが左右で違うなど骨格的なゆがみもがみられる場合もあります。

ただし、TCHと骨格的なゆがみの関係は、「TCHがあるから姿勢が歪んでいる」のか、「姿勢が悪いからTCHがある」のか、どちらが先かの断定は難しいものがあります。 身体というものはすべてひとつながりですので、一箇所バランスが変わるとほかの部分も補おうとして、かわってきます。 たとえば、常に左肩にバッグをかけて歩く習慣があると、左肩が少し上がった状態に傾きます。それに連動して頭も左に傾きます。そうすると顎も左にズレやすくなります。左で咬むTCHがあれば、その逆もまたあるということです。

 

4、歯科治療が上手くいかない

本来、上記のように咀嚼・会話を併せても一日20分程度しか接触していないはずの歯列が、TCHによって一日中接触しているとなると、その負担は何十倍にもなります。健康な歯でもそれなりのダメージになるところですが、これが被せの入った歯や治療中の歯、または入れ歯となると、負担に耐え切れるでしょうか? 被せを何度入れなおしても外れる・噛みにくい、入れ歯があたって痛くなるなど、TCHがあるとおこりやすくなります。 また、根っこの治療中の歯がいつまでも治らない、舌が痛い、歯周病の治りが悪いなど、TCHによる筋肉の緊張や歯の周りの組織への圧迫によって血流が悪くなることによって様々な影響を受けます。  

 

TCHを治すには

TCHを治すのは、方法自体はとてもシンプルです。

「歯を接触させないように気をつける」、これだけです。

ただし、シンプル=簡単というわけではありません。なくて七癖、「貧乏ゆすり」などのように自分でもわかっているのに、どうしても癖がやめられないという経験をもつ方はたくさんいるはずです。 まして、TCHは、やっているかどうか、はたから見てもわからないので、まわりの人に注意してもらうこともできません。ひたすら、自力で気をつけるという地味で孤独な自分との戦いです。

ここで、ひとつ、そんな孤独な戦いの手助けになる有効な手段があります。

「貼り紙法」です。

当院では以下のようなオリジナルのステッカーを患者さんにお渡しして、職場と自宅の目に付くところに貼ってもらうようにしています。

 

             

 

「くちびるとじて歯をひらく、お顔の筋肉リラックス」と書いてあります。 これを見るたびに、実行するわけです。 単純でばかばかしいと思いがちですが、ただ「歯をひらく」といっても、ずっと常に意識し続けるのは不可能です。どうしても、他の仕事などに気持ちがいってしまえば、頭からぬけてしまいます。 そこで、仕事の隙間にふとステッカーが目に入ったときに、TCHを思い出して歯をひらいてください。 この「見たら、ひらく」という行為を繰り返すことによって、少しずつ「歯をひらく」という行為が習慣づいてきて、貼り紙をみなくても、「歯があたっていればひらく」ことが身についてきます。

ポイントは、「既存の癖を治すのは難しいけれど、新しい癖(習慣)を身につけるほうが簡単」ということです。

とういことで、この貼り紙は、できるだけたくさん貼ったほうが効果的です。さらに、自分で手書きしたほうが、より強く意識付けできます。(試験勉強と同じで、繰り返し書くことで、カラダにたたきこむ!) 貼りはがしできる付箋に10枚くらいは書いて、あちこちに貼るとよいでしょう。

また、この「貼り紙法」の副次的な効果としては、職場などの目に付く場所に貼ることで、周囲の人の目をひきますので、「何、コレ?」という話題になります。 そんな時はめんどうくさがらずに、TCHについて説明しましょう。周囲の人に何度か話すうちに、自分自身への意識付けが強くなりますし、同じ悩みを持つ仲間がみつかれば、がんばりやすくなります。 常時でなくても、緊張時のみに行う「隠れTCH」も意外とたくさんいるはずなので、肩こりや顎関節症で悩まされる方々に貼り紙の説明をしてあげましょう。TCHはまだまだ一般的にはあまり知られていませんので、悩みを抱えている同朋の救世主になれるかもしれません。