JR倉敷駅より徒歩6分岡山県倉敷市阿知3丁目13ー1 あちてらす倉敷南館1階

TEL 086-422-4410

お問い合わせ

TEL CONTACT

2015年 10月 歯の根っこが溶ける!? ―歯根吸収―

皆さん歯に根っこがあることはご存知ですよね?今月は歯の根っこが溶けてしまう現象「歯根吸収」のお話です。

まずは歯の構造から。
歯はお口の中に生えていますが、手の爪のように歯ぐきの表面にくっついているのではなく、根っこの部分が顎の骨に埋まっていることで支えられています。
髪の毛も毛根と呼ばれる部分が頭皮に埋まっていますが、歯の場合は毎日何十キロという咬む力に耐えなければなりませんから(奥歯の咬合力は体重とほぼ同じ位)根っこの部分も相当にしっかりしていなければなりません。前歯から奥歯まで各歯によって違いますが、骨に埋まっている根っこの部分は、お口の中に生えている長さの2~3倍の長さがあります。

   

 
ここで重要なのは、赤いラインの部分、骨に埋まっている根っこの部分です。この接触面積が広いほど、歯はしっかり顎の骨と結合していることになります。

下の図を見てください。

   


いずれも、最初の図とくらべて赤いラインの部分が少ないですね。
これはつまり歯と骨の結合が弱いということになります。
特にA)の歯周病の場合、骨が上からどんどん減っていきますから、赤ラインの部分はどんどん減っていきます。限界をこえると、歯はブラブラになり抜けてしまいます。たとえ歯自体は虫歯などない無傷の状態でもです。だからこそ歯周病は怖いのであり、歯を失う原因のNo.1です。

さて、B)C)の場合ですが、なんらかの事情で歯の根っこが短くなってしまった場合の図です。
まず、B)ですが、これは乳歯の図です。実際のレントゲンを見てみましょう。



 左は生えてあまり経っていない乳歯です。乳歯根の下に永久歯がスタンバイしています。
右は二年後です。永久歯が下から伸びてきて生え変わる直前です。
永久歯の頭が乳歯の根っこの先に触れるとその刺激で乳歯の根っこは溶けて短くなっていきます(歯根吸収)。

ですから、自然に抜けた乳歯にはほとんど根っこはついていないですよね。そして抜けた部分の歯ぐきには永久歯の先端が見えていたりします。これが理想的な生え変わりです。



   自然に歯根吸収して抜けた乳歯
↑歯の裏側(歯根のなくなった部分が穴になっている)
    
   

ところが永久歯の生える位置がずれていたりすると乳歯の根っこがうまく歯根吸収されず、乳歯は自然に抜けることが出来ません。乳歯が残ったまま隣に永久歯が生えてくることもありますし、場合によってはもっと困ったことがおきてしまいます。

「永久歯の歯根吸収」です。
下の写真をご覧ください。これは永久歯の生える位置が極端にずれてしまっている症例で、本来吸収されるべき乳犬歯の根っこは残っており、犬歯の永久歯(番号がついているのが永久歯 犬歯は3番)が、先に生えている隣の永久歯のほうに向かって生えてこようとしています。
(5番の永久歯は正しく乳歯の真上にスタンバイしているので、乳歯は根っこが吸収され歯冠だけになっています。)

   


この症例の場合は犬歯の位置が前後的にもかなりずれており、このレントゲンではわかりづらいですが、2番の永久歯の根は犬歯と重なって写っているので、まだ歯根吸収は起こっていません。

もうひとつの症例を見てみましょう。

   


真ん中と二番目の永久歯の根っこの先がちぎれたように無くなっていますね。
ずれた位置に生えてきた永久歯が、先に生えている隣の永久歯の根っこにあたってしまうと、乳歯同様に歯根吸収が起こってしまいます。
歯根吸収は乳歯だけでなく永久歯にも起こりえるのです。

さて、このように歯根が吸収されると骨と根っこの結合面積はかなり少ないということになります。この症例の状態ですと、すぐに抜けるということではありませんが、強い力や歯周病に対しては弱くなりますので、あまり硬い物を噛んだり歯を揺らすようなことは避け、むし歯や歯周病にならないようしっかりケアしていかなければなりません。なにより、まず第一に歯根吸収の原因を除去して、これ以上の吸収を防がなければいけません。先ほどの乳歯のように完全に根っこがなくなれば自然に抜けてしまうでしょう。

このような症例のほかに、C)のように生まれつきもともと根っこが短い場合や、外的な力が加わることによって歯根吸収を起こす場合もあります。
ごくまれですが矯正治療の刺激で吸収を起こす場合もあり、基本的に矯正は弱い力で歯を動かしていくのですが、それでも吸収がおこる場合には程度にもよりますが、ときには治療の中断もせざるを得ません。特に元々短い場合は吸収のリスクが高いので矯正治療にはかなりの注意が必要です。

こういったリスクを回避するためにもレントゲンの撮影は重要になります。昨今放射線に対してナーバスになっている方もおられるようですが、歯根の状態を把握するためにレントゲン撮影はもっとも有効な方法です。一つめの症例では検査時のパノラマレントゲンによって、早い段階で移転歯が見つかりましたので、原因となっている歯を正しい位置に動かすことで、歯根吸収を避けることができました。二つ目の症例も3DCTの撮影でかなり具体的な歯の位置関係が把握できましたので、吸収している歯を出来る限り生かす方向で治療しつつ、随時レントゲンや3DCTで歯根の状態をチェックしています。

場合によっては歯根の短い歯は寿命が短いとして、矯正治療の際に抜歯対象になることもありますが、やはりインプラントやブリッジといった人工の歯よりは天然の歯のほうが良いので、出来る限りは残してあげたいと思っています。歯根の短くなった歯でも10年以上保っているケースは少なくありません。インプラントやブリッジも寿命のあるものですから、あまり早くからするよりは天然歯の後の最終手段としてよいでしょう。ただし、そうなった場合でも周囲の歯でうまく補えるよう多角的な見通しを持つことは診療上、大切なことだと思います。


<29歳女性 本来12歳くらいには抜けるはずの乳歯が残存している症例>
乳歯と入れ替わりに生えてくるはずの第二小臼歯が先天性欠如していたので、乳歯の歯根が完全に吸収されず抜けずに残っています。(写真中央の歯。両サイドの歯と比べてもほとんど根っこがない)乳歯の歯根としてはかなり短くなってますが、初診時(当時23歳)から、非常にしっかりしているので、乳歯を抜くプランと抜かないプランの2パターンを提案。患者希望により乳歯は抜かずに永久歯とともに矯正治療でかみ合わせに治療しました。治療終了後3年たっても、ぐらつくこともなく一貫して安定しています。(写真29歳)本来ならば、12歳くらいに抜けるはずの乳歯が17年以上もっていることになります。40歳くらいまで乳歯が残っている例もありますので、このまま様子をみてよいでしょう。乳歯の両隣の歯の傾きもまっすぐなので、将来もし乳歯が抜けた場合でも、よい状態でインプラントまたはブリッジが可能。(ブリッジは足場として両隣の歯を使うので、歯が傾いていたりすると負担が大きくなり両隣の歯の寿命は短くなりやすい。)


治療前
治療後
治療前
治療後