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2022年 10月 アライナー治療(透明マウスピース型矯正装置)について

皆さん、アライナー治療という矯正の治療方法をご存知でしょうか?

取り外しのできる透明な薄いマウスピースを使用して歯を動かす治療方法で、「インビザライン」とい商品名の装置が比較的有名なので、そちらの名称でお聞きになったことのある方もおられるかもしれません。

 

透明なので着けていても見た目の違和感が少ないので、最近では芸能人での治療例などもネットやSNSで話題になっているため、当院へもたまに問合せがあります。

一般の方からすると、見た目も目立たず、取り外しも効くなら、物凄くいい矯正装置だと思われるでしょう。

ぜひこの治療法でと望まれる気持ちも理解できますが、この治療法に関して具体的にどの位ご存知でしょうか?

 

一口にマウスピースで歯を動かすと言っても、「マウスピース」とはお口に入れる器機や部品の総称ですので、管楽器のお口にくわえる部分やスポーツで使う歯のガードもマウスピースと呼ばれます。当院で治療や保定に使用する様々な取り外しの装置も総称してマウスピースと呼んだりします。

 

ではここで、今回お話しする「透明マウスピース型矯正装置=アライナー」とは、どういったものでしょう?

まず歯科医師が患者さんの歯型をマウスピースの制作会社に送ります。制作会社はその歯型を3Dスキャナーで取り込んでデータ化し、歯並びがきれいになるまでの歯の動きをコンピューターでシミュレーションし、その歯列を細かい段階にわけて、各段階ごとのマウスピースを制作します。歯科医師は制作会社から送られてきたマウスピースを患者さんに渡して使用してもらいます。歯を動かすためマウスピースは一段階ごとに現在の歯並びより少しだけ良い状態に動いた歯並びになっていますので、つけ始めはきついですが、1日20時間以上装着しているとだんだんきつい感じがなくなり歯の方がマウスピースに沿った並びに動きます。正しく動いていれば次の段階のマウスピースへ交換します。これを歯並びがきれいになるまでを繰り返すのです。

 

すでにお気づきの方もおられるかと思いますが、アライナー治療は「マウスピースの取り外しが効く」という特徴がメリットでもありデメリットでもあります。取り外しが効く分、矯正力のかかり方が緩く、治療出来る歯並びが限られています。基本的に激しい出っ歯や凸凹の歯並びは難しいと言われています。どの位の歯並びならアライナー治療が可能かというと、治療する歯科医師の技量によります。アライナーのオーダー自体は歯科医師であれば矯正治療の経験の有無に関係なく誰でも可能ですが、どの位の歯並びならアライナー治療できるのか、またコンピューターには読み取ることができない骨格とのバランスなどの判断が歯科医師の経験と技量に求められます。歯並びによってはあらかじめ少し固定式装置で動かしたり、アライナーの安定性をよくするために歯の突起をつけたりといったことも必要です。

 

また、取り外しの装置であるアライナーは患者さんが自由に着脱できますので、どの位きちんと使用できたかが治療状況を左右します。使用時間が足らなければ(一日20時間以上使用)歯が動かない、つまり治療は進みません。(当院でもアライナーではありませんが取り外しの装置を治療や保定に使用していますが、はじめのうちはやる気満々で使えていても、徐々になんとなくめんどくさくなったり、忙しくて着け忘れてしまう、などのケースはよく見られます。)

治療が進まないだけなら時間をかければ良いですが、使用状況によって予期せぬ歯の動きをする場合もあります。アライナーは治療前の歯型で治療終了までのマウスピースを一気に制作されるので、そうなるとそれ以降のマウスピースは合わなくなってしまいますので、作り直しになります。アライナーの治療中の正しく使えているか、合わなくなっていないかなどの経過観察とフォローも重要です。

 

さて今回、このアライナー治療に関してお話していこうと思ったのは、昨今のコロナマスク生活による矯正治療の需要の高まりとともに、アライナー治療のトラブルが急増しているという情報が入ってきたためです。

 

近年皆さんの周りでも3Dスキャナーや3Dプリンターなどのデジタル機器がずいぶん一般化してきていると思います。そういった関連機器の普及と共にアライナー治療も新規企業の参入や低コスト化傾向にあり、今まで矯正治療を行なったことのない歯科医院でも導入していくことが増えているそうです。もちろん充分な経験のもとにアライナー治療を行っている医院もあるはずですが、一般の方々にはそういった区別は付きにくく、企業の方もSNSやあらゆるメディアを利用して患者さんや導入歯科医院の募集を行っているとのことで、治療例の写真だけでは、かなり知識がないと、かみ合わせの良し悪しは分かりませんので、ちょっと見た目にきれいになっている写真で簡単に信じてしまいやすいようです。(歯の並びがきれいになっていても、奥歯が嚙み合わない、顎の位置がずれてしまうなどの問題は、我々専門医でも写真だけでは確実な判断は難しいです。)

 

こういった状況をうけまして、公益社団法人日本臨床矯正歯科医会がまとめたアライナー治療に関するアンケート調査と留意点が発表されましたので、少し参照させて頂きますと、日本臨床矯正歯科医会所属の矯正歯科医師によるアンケート調査によると、現在アライナー治療を行う矯正歯科医院の割合は55%だそうです。その中で患者さんの2割以上の患者さんにアライナー治療を行う医院は10%、アライナー治療のみで診療している医院はゼロとのことでした。

またアライナー治療と言っても、ほとんどの医院で治療の途中で固定式のブラケット治療を併用するとのことで、全てアライナー単独治療という医院はわずか2%でした。

つまりアライナー治療は矯正治療の中でも補助的な位置付けであり、アライナー治療と言っても必ずしも固定の装置なしで治療出来るわけではないということです。

 

実のところ当院でも現在アライナー治療は行っていません。一時期導入するために器材をそろえてみたのですが、上記のようにアライナーに加えて固定の装置も併用するとなると、どうしてもコストが上がってしまい、当時、希望する患者さんがおられなかったのです。

先述の新規企業の参入や低コスト化傾向で「安い速い」を売りにした集客もあるようですが、同じ症例で歯の移動を行う場合、取り外しの装置が固定の装置より速いというのは理論上考えにくいです。コスト面では確かに以前より下がっているようですが、悪質業者がSNSなどで治療費のキャッシュバックを行うということで集客し途中で連絡がつかなくなるという詐欺まがいの事例もあるようですのでご注意を。

 

もちろん、ちゃんとしたアライナー治療を行っている医院もあるはずですので、今回の日本臨床矯正歯科医会の発表も、要はそういった状況を知った上で、医院選びに気を付けてほしいということだと思います。昨今SNSや様々なメディアでの安易なとりあげられ方に警鐘を鳴らすべく、日本臨床矯正歯科医会ではメディア各社に向けたセミナーを開催したとのことです。以下に同会によるアライナー治療における留意点を転載しておきますので、ご留意ください。

 

アライナーを用いた矯正歯科治療の留意点
●効果は装着時間に影響される(決められた使用時間を守れないと歯が動かない。)
●適応症例が限られる(激しい出っ歯や受口、凸凹は治せない。)
●歯の根もと部分についての情報が欠けている(3Dスキャナーではお口に生えている部分しか記録されないので、骨格や歯根については専門医の経験と知識で補わねばならない。)
●咬み合わせ面を覆う形態のため、奥歯が圧下される場合もある(奥歯が押下げられて嚙み合わなくなる)
●保険診療には使用できない(厚労省の認可を受けた医療機関で行う特定の全身疾患に起因する歯列の矯正や、手術を併用して行う顎変形症の矯正治療は保険適用となるが、アライナーは法的には医療機器の認可を受けておらず雑貨扱いなので、保険診療としての使用は不可。自費診療においても医療問題が起こった際の公的救済はない)