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2020年 7月 歯科矯正用アンカースクリューを使用した矯正歯科治療

今月は歯科矯正用アンカースクリューを使用した矯正歯科治療についてのお話です。治療法と矯正装置のページで、近年盛んになりつつある最新の治療法として、矯正用アンカースクリュー(以下 アンカースクリュー)についてご紹介いたしましたが、こちらのトピックスで、実際の症例とあわせて矯正用アンカースクリューの特性やメリット・デメリットについて詳しくご紹介いていきたいと思います。

 アンカースクリューとは矯正用インプランとも呼ばれ、インプラトいうと、一般的には 失ってしまった歯の代わりに顎の骨に埋め込む、人工歯根のイメージがあるかもしれません。歯の代わりに使用するデンタルインプラントは、日常的に加わる何十キロもの噛む力に耐えるためにある程度の大きさが必要ですし、お口の中で安定させるには何段階もの手順と数ヶ月の期間が必要です。

しかし、矯正治療で使用するアンカースクリューはあくまで治療期間のみに使用し、治療に必要な300グラム程度の力に耐えればよいので、サイズもずいぶん小さく、治療が終わればすみやかに撤去します。小さい分、手入れも撤去も比較的簡単で、撤去後の穴も1週間くらいで すぐにふさがります。実際のサイズとしては、当院では直径1.6ミリ、長さ6~10ミリ程度のものが主流です。骨に埋め込むと聞くと何やら恐ろしいような気がしますが、ピアスとそう変わらない大きさです。(写真は長さ6㎜~10㎜のアンカースクリューでライターとのサイズ比較です。)


          
                  
では、どのように埋め込むかというと(実際には完全に骨の中に埋めてしまうのではなく、アンカースクリューの頭の部分は出ているので『植立(しょくりつ)する』といいます。)当院で使用しているアンカースクリューはセルフドリリングタイプですので、あらかじめ骨に穴を開ける必要がありません。ネジをドライバーで回転させると自力で骨内に入っていきます。(骨がごく硬い場合にのみ、アンカースクリューの先端が入る程度のくぼみをつけます。)
 また、当院で植立する場合、ほとんどの症例で歯肉のかたい部分に植立しますので、歯肉の切開も行いません。


                   
           

ですので、実際の手順としては以下のようになります。


1、口腔内の清掃・消毒

歯垢を染め出して細部まで手作業で徹底的に磨いた後、消毒薬で消毒します。


2、ガイドのフィッティング

あらかじめ製作しておいた植立部位と方向を示すガイドを実際の歯に合わせてフィットを確認します。


3、麻酔

注射針の傷みを抑える表面麻酔剤の塗布後、通常より細い針で電動注射器を使って、ゆっくり麻酔液を入れるのでほとんど痛みがありません。


4、植立

ドライバーの先にアンカースクリューをセットし、ガイドに沿って、ゆっくり回転させて植立していきます。ほとんどの場合痛みは無く、骨を押されている感じがします。


5、飲み薬と注意事項の説明

痛み止めと化膿止め・消毒のうがい薬をお出しします。痛み止めは痛くなければ飲む必要はありませんが、化膿止めとうがい薬はかならず使いましょう。  



       



以上が植立のすべてで、所要時間は平均一時間程度です。植立後一ヶ月、アンカースクリューの安定を確認し、治療の固定源として使用していきます。上顎の奥歯の左右内側にアンカースクリューのヘッドが見えていますね(上写真矢印)。歯はアーチワイヤーで全て連結し、アーチワイヤーからでているループに半透明の鎖状のゴムをひっかけてアンカースクリューからで引っ張ります。

 このようにアンカースクリューは顎の骨に固定源を求める機構なのですが、最大の特徴は「動かない」ことです。歯を動かすには矯正力の支点になる固定源が必要です。従来の方法ですと一方の歯からもう一方の歯に力をかけて動かしますので、支点になる方の歯にも力がかかり動いてしまうという副作用がありました。ですので、すべての歯をいっせいに同じ方向に動かすことが難しかったのです。取り外し式の補助装置を患者さんに毎日使ってもらって支点にする方法もありますが、患者さんの負担も大きく、協力してもらえないと効果がでなかったりします。ここで注目されたのが矯正用アンカースクリューなのです。歯ではないので動くことなく固定源として働きます。下図のように全ての歯をいっせいに一方方向に動かすことや、従来難しいとされた歯の高さのコントロールも可能になったわけです。



         


ただし、このように多くの利点のあるアンカースクリューですが、多少の制限があります。以下にアンカースクリューのメリット・デメリットをあげてみましたのでご覧ください。


メリット

・非抜歯(歯を抜かない)で治療できる症例が広がる。
・従来法で治療中に固定歯の補助に使用する取り外しの装置が不要になる。
・固定源に出来る歯が無い場合でも治療できる。
非抜歯における上顎前突・下顎前突の治療の際、従来法より前歯を内側に移動できる範囲が大きい。
・開咬の治療の際、アンカースクリューで治療すると後戻りしにくい。  


デメリット

・若年者(15歳以下)は骨がまだ柔らかいので使用できない。
・炎症が起こると、アンカースクリューが脱落しやすい。 (体調や口腔内清掃に注意!)
・歯根を傷つけないよう埋入には技術が必要。



 <症例>


 こちらの症例は23歳の女性で上顎前突を主訴に来院されました。前歯の隙間だけでなく、奥歯の咬み合わせも上顎の歯の方が全体に前に寄っており、上顎前突の原因となっています。



     
先述の通り、通常の治療法ですと上顎の前から4番目の小臼歯を両側抜歯したうえで、奥歯から前歯を引っ張って、抜歯で出来たスペース分、前歯を内側に移動させて治療して行きます。 しかし、アンカースクリューを使用した場合、アンカースクリュー

から全ての歯を引っ張って奥に移動させることができるので、歯を抜かず上顎前突を治療出来ます。(上図参照) 

検査結果と治療計画をよく説明した上で、患者さんにアンカースクリューの同意をいただいたら治療を開始します。

以下に時間の経過とともに前歯の前突感が改善されていく様子を写真でご覧ください。


初診時
 まず、あらかじめ通常どおりMBSで治療を進めます(この方の場合、上顎のみ舌側矯正を希望されました)。

   

治療開始10ヶ月
ある程度歯並びが治った時点でアンカースクリューを植立します。(通常アンカースクリューは当院内で植立します。麻酔下で行いますのでたいていの場合ほとんど痛みはありません)この段階では、初診時の歯の隙間は閉じており歯並びのでこぼこも治っていますが、まだ上顎の前突感は治っていません。


   

治療開始1年2ヶ月
 植立後、1~3ヶ月程度アンカースクリューの安定を確認した後、牽引開始です。アンカースクリューから全体の歯を奥に引っ張って上顎前突を治していきます。

   

治療開始2年1ヶ月
 全体に上の歯が引っ込んできました。

   

治療開始2年9ヶ月 治療終了
治療終了時、全ての治療装置は撤去し、アンカースクリューも外します。(現在では撤去半年後くらいに外すことが多いです。) アンカースクリューの撤去は比較的簡単な処置なので麻酔なしで行えます。撤去した後の表面の穴は2日~1週間程度ですぐに自然にふさがります。

   

最後に、下の写真は治療前後の口元の変化をあらわしています。ずいぶん印象がかわっているのがお分かりいただけると思います。

治療前                      治療後

   




  治療前


  治療後



 近年、アンカースクリューを使用することによって、従来難しいとされた症例の治療や不可能とされた歯の移動が可能になってきました。また、取り外しの治療補助器具の使用などといった患者さんの負担も無くすことができます。アンカースクリューは矯正治療の未来を大きく切り開いてくれる装置といえるでしょう。ただし、小規模とはいえ外科処置ではありますので、抵抗感をもたれる患者さんも少なくないと思います。私たち自身、患者さんとよく話し合った上で患者さん本人が何を求めているかをよく理解した上で治療にあたることを心がけています。  


治療データ詳細

主訴:出っ歯  診断名:上顎前突、過蓋咬合  年齢:23y7m  

治療装置:マルチブラケット装置(上顎:リンガルブラケット)、歯科矯正用アンカースクリュー

抜歯部位:非抜歯 治療期間:2年9か月 治療費:矯正管理料として70万円(検査料・処置料別途)

矯正歯科治療に伴う一般的なリスクや副作用について:

① 最初は矯正装置による不快感、痛み等があります。数日間~12 週間で慣れることが多いです。 ② 歯の動き方には個人差があります。そのため、予想された治療期間が延長する可能性があります。 ③ 装置の使用状況、顎間ゴムの使用状況、定期的な通院等、矯正治療には患者さんの協力が非常に重 要であり、それらが治療結果や治療期間に影響します。 ④ 治療中は、装置が付いているため歯が磨きにくくなります。むし歯や歯周病のリスクが高まります ので、丁寧に磨いたり、定期的なメンテナンスを受けたりすることが重要です。また、歯が動くと 隠れていたむし歯が見えるようになることもあります。 ⑤ 歯を動かすことにより歯根が吸収して短くなることがあります。また、歯ぐきがやせて下がること があります。 ⑥ ごくまれに歯が骨と癒着していて歯が動かないことがあります。 ⑦ ごくまれに歯を動かすことで神経が障害を受けて壊死することがあります。 ⑧ 治療途中に金属等のアレルギー症状が出ることがあります。 ⑨ 治療中に「顎関節で音が鳴る、あごが痛い、口が開けにくい」などの顎関節症状が出ることがあり ます。 ⑩ 様々な問題により、当初予定した治療計画を変更する可能性があります。 ⑪ 歯の形を修正したり、咬み合わせの微調整を行ったりする可能性があります。 ⑫ 矯正装置を誤飲する可能性があります。 ⑬ 装置を外す時に、エナメル質に微小な亀裂が入る可能性や、かぶせ物(補綴物)の一部が破損する 可能性があります。 ⑭ 装置が外れた後、保定装置を指示通り使用しないと後戻りが生じる可能性が高くなります。 ⑮ 装置が外れた後、現在の咬み合わせに合った状態のかぶせ物(補綴物)やむし歯の治療(修復物) などをやりなおす可能性があります。 ⑯ あごの成長発育によりかみ合わせや歯並びが変化する可能性があります。 ⑰ 治療後に親知らずが生えて、凸凹が生じる可能性があります。加齢や歯周病等により歯を支えてい る骨がやせるとかみ合わせや歯並びが変化することがあります。その場合、再治療等が必要になる ことがあります。 ⑱ 矯正歯科治療は、一度始めると元の状態に戻すことは難しくなります。