歯が痛い・・・といえば『虫歯』と皆さん思い込んでいませんか?
患者さんから「虫歯が痛いので診てください」といわれて、いくら調べてみても虫歯は無いことがあります。なんだか不思議な話ですが、歯が痛いのに、歯には問題がない、ということは、いくら痛い歯を治療しても痛みは取れないということです。仮に痛みから解放されたいあまり歯を抜いてしまったとしても、そもそもの痛みの原因が歯ではない場合、痛みから解放されるとは限りません。
これは異所性(いしょせい)疼痛(とうつう)といって、「痛みの信号を伝達する経路」や「痛みを認識する脳」の方に問題が起こると、「痛みを発生する原因の場所」とは違った場所を「痛い」と認識してしまったり、通常では問題のないレベルの信号でも「痛い」と認識してしまう現象です。
皆さんよくご存じの例でいうと、かき氷を食べたときに頭が痛くなった経験のある方は多いのではないでしょうか?冷刺激があったのはお口の中にもかかわらず、お口から離れた場所であるこめかみや後頭部が痛くなるという、考えてみれば不思議な現象ですが、これは「アイスクリーム頭痛」と呼ばれ、お口のなかからの神経伝達経路である三叉神経が他の場所からの刺激と勘違いしてしまうことや、脳内の血管が冷刺激に反応して膨張して、痛みを感じると言われています。
こういった異所性疼痛は歯科分野では「非歯原性歯痛」といって、様々な原因で引き起こされる歯痛があります。(歯が原因で起こる歯痛は「歯原性歯痛」となります。)
前回はこの「非歯原性歯痛」について、原因と症状の特徴など色々ご紹介いたしましたが、今回は「非歯原性歯痛」の中で最も多い「筋・筋膜痛による歯痛」に焦点を当ててお話ししていきたいと思います。
筋・筋膜痛による歯痛とは
同一姿勢での連続作業やくいしばりなどの慢性的な負担により、筋肉が縮こまったまま固まってしまい、筋肉や筋膜(筋肉を包み込む薄い膜状の結合組織)の中にトリガーポイント(TP)と呼ばれるしこりが形成され痛みを発します。TPは触れると痛みが増し、他の部位にも痛みが放散します。この原因となる筋肉のTPによっては関連痛が発生して「歯痛」を感じる場合があります。
非歯原性歯痛ではもっとも多く、約6割を占めます。普通の虫歯などの歯原性歯痛(歯が原因の歯痛)と混同されやすく、誤って麻酔抜髄や抜歯処置が行われてしまう可能性があり注意が必要です。
この歯痛の原因となる筋肉は、歯と同じ神経に支配されている筋肉で、ものを咬むための筋肉である咀嚼筋です。咀嚼筋には、側頭筋,咬筋,などがあり、関連痛の発現部位は原因になる筋肉によって異なります各関連部位は以下の項の図をご覧ください。
痛みの特徴
症状としては,部位の特定が困難な、自発性(何もしなくても発生する)の鈍痛・持続性の痛みなどです。「数日~数週間前から、軽度の疼(うず)くような鈍い痛みが歯に生じている。」「どの歯が痛いのかよくわからない。」などで、痛みは日常生活には支障はないレベルです。
診察・検査
筋の圧痛検査を行い発生源の筋肉を特定します。
歯に関連痛を生じさせる筋肉は、主に咀嚼筋(食べ物を噛み砕く筋肉)です。そのうちの咬筋(こうきん)と側頭筋(そくとうきん)が特に歯痛と関連することが多いです。
・咬筋(下あごの外側の筋肉)
咬筋の上部の痛みは、上の奥歯や上あごに関連痛を引き起こしやすく、下部の痛みは下の奥歯や下あごに関連痛を引き起こしやすい。
・側頭筋(こめかみの上の筋肉)
側頭筋の前方部の痛みは、上の前歯や目の周りに、後方部の痛みは上の奥歯や頭に関連痛を引き起こしやすい。
疼痛発生源と思われるTPを見つけたら、5秒程度,圧迫し続けます。圧迫により、歯痛が再現されればそのTPからの関連痛で歯痛が生じている可能性が高くなります。
確定診断はTP注射で行います。痛みの発生源であるTPに局所麻酔(TP注射)を行うことで歯痛が消退することで診断ができます。反対に,歯には異常はないので、患者さんが歯痛を訴える部位に局所麻酔を行っても歯痛は改善しません。
TPと関連痛の部位
×印がTP 赤色の部分が関連して痛くなる部位です。
<咬筋>

咬筋上部 → 上顎大臼歯
咬筋下部 → 下顎大臼歯
<側頭筋>

側頭筋前方 → 上顎前歯
こめかみ → 上顎犬歯付近
側頭筋後方 → 上顎大臼歯
また、次のように首や肩の筋肉のトリガーポイントによっても、歯やあごに関連痛を引き起こすことも多くあります。
<胸鎖乳突筋(きょうさにゅうとつきん:首の横の筋肉)>
胸鎖乳突筋にトリガーポイントがあると、目の周りやおでこ、後頭部、上の歯,上あごなどに関連痛を引き起こしやすい。

<僧帽筋(そうぼうきん:肩の筋肉)>
僧帽筋のトリガーポイントは首、頭、あごなど様々な場所に関連痛を引き起こしやすい。
治療
TPが生じている筋を安静にする必要があります。そのため繊維質・硬い食物の摂取を控えるともに、ガムの咀嚼を制限、日中の上下歯列の接触癖(TCH)の改善などを行います。
咀嚼筋は、歯と歯が接触するだけでも活動する筋肉です。一般的に、1日のうちで歯と歯が接する時間は食事や飲み込みなどの20分程度しかなく、それ以外の時間は、原則として歯と歯は接していません。しかし、食いしばり(噛みしめ癖)がある人や、寝ている時に歯ぎしりをする人、パソコンで集中し続ける作業などが長時間に及んでいる人などは、無意識のうちに歯と歯が長時間にわたって接している可能性があり、慢性的に咬筋や側頭筋がコリやすくなっています。(TCHに関してはこちらをお読みください。2021年 3月 歯列接触癖-TCH-)
こうしたコリをほぐすのに最も効果的なのは、発生源の筋肉のストレッチやマッサージです。TPの場所が確認できたら、その周囲の筋肉をほぐすよう心がけましょう。以下にマッサージ法の例を挙げておりますので、休憩時間などの隙間時間に行ってみましょう。
どうしても痛みが強い場合の痛み止めとしては、ロキソニンやボルタレンは筋膜痛による歯痛には効きにくいため、中枢に作用するアセトアミノフェンを用います。(ロキソニンは患部の炎症を治める作用なので、炎症が原因でない場合効きにくい)
さらに症状が強い場合の投薬治療として、前述のトリガーポイント注射は鑑別診断とともに治療としても有用で、1%のリドカインなどを2~5ml程度注入します。なお使用する薬剤には血管収縮薬が含まれない局所麻酔薬が推奨されます。鎮痛効果を期待して非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAIDs)を使用することもあります。さらに症状の程度により中枢性筋弛緩薬,三環系抗うつ薬,ベンゾジアゼピンなどを選択する場合もあります。こういった治療は、かかりつけ歯科医または日本口腔顔面痛学会のホームページから専門医を見つけて相談してみましょう。

