JR倉敷駅より徒歩5分〒710-0055 岡山県倉敷市阿知2-8-1 倉敷会館ビル2F

TEL 086-422-4410

お問い合わせ

TEL CONTACT

2021年 7月 歯の自損事故 2 -歯が溶ける!? 酸蝕(さんしょく)-

毎日暑い日がつづきますが、皆さんいかがお過ごしでしょうか?

さて、こう暑いとさっぱりした飲み物がおいしいですよね。炭酸飲料、フルーツジュース、運動時の水分補給にスポーツ飲料なども人気です。

 

ところで、こういったドリンク類には糖分が多くふくまれているで、「糖分のとりすぎは虫歯になりやすいので気をつけましょう!」と、なるのがよくあるパターンですが、今回の話は少し違います。

 

ということで、先月ご紹介したアブフラクションに続きまして、今月もトゥースウェア(虫歯以外の原因による歯の損傷)のお話です。

 

以前、当院の患者さんで、こんなことがありました。

 

若い女性の患者さんで、何年かぶりに検診で来院されたのですが、上の前歯の裏側がおかしな感じになっているのです。形が通常と違って妙に薄く、先端が薄く鋭角にとがっている感じで、色や触感からすると表面のエナメル質がなくなって部分的に芯の象牙質が露出した状態でした。

(エナメル質は歯の表面からの刺激をガードする役割ですので、なくなるとしみて痛くなったり、虫歯菌が侵入しやすくなってしまいます)

 

 

 

 

矯正治療はずいぶん前に終了していて歯並びも良く安定しており、歯磨きもとてもよくできていいます。虫歯のチェックもしましたが、ありませんでした。

 

こういった、症状をそれまで見たことがなかったので、とてもびっくりして、ご本人にお話を聞いてみたところ、意外な事実がわかってきました。

 

まず、自覚症状について聞いてみると、少し滲みるので虫歯かもと心配だったとのことです。

表面に歯垢はついていませんし、虫歯でこのように平らに滑らかにエナメル質が無くなることはまずありません。痛みも損傷のわりに少ないところからも、ゆっくり少しずつ歯磨きですりへったと考えるのが妥当なようです。

 

いままで、このトピックスのコーナーでは何度か、歯磨きのしすぎで歯が磨り減るというお話を何度かしてきました。

しかし、普通、歯磨きのしすぎで磨り減るのは、もともとエナメル質の薄い歯と歯茎の境目のあたりで、上図のように歯の裏側が広範囲に大量に削れることはあまりありません。(年配の方で何十年にもわたって磨り減り続けたならともかく、この患者さんはまだ二十代です。)

 

とりあえず、歯磨きのや日常生活について詳しく聞いてみました。

 

オレンジジュースが好きで、ビタミンCも豊富で身体にもいいと毎日ひんぱんに飲むそうです。もちろん虫歯は心配なので、飲んだらすぐ歯磨き粉で磨くようにしていたとのことです。

 

これではっきりしました。酸蝕(さんしょく)です。

酸蝕とは飲食物に含まれる酸によって歯が溶けてしまう状態のことです。

 

話は変わりますが、皆さんは虫歯がどのようにできるかご存知でしょうか?

 

人のお口の中には、もともと常に菌が住んでいて、飲食物の中の糖分を栄養としてとりこみ、酸をつくりだします。この菌の作る酸が多くなって、エナメル質の表面が酸性度がpH5.4以下になると、エナメル質が溶け始めます。こうして菌が多くたまりやすい歯の溝などがピンポイントで溶けて穴が開いていくのが虫歯なのです。

 

さて、ここでポイントなのが、pH5.4という数字です。オレンジジュースのpHは約pH4・・・。pH5.4以下ですね。

酸蝕は「虫歯菌が糖を代謝して酸をつくる」という段階を飛び越えて飲食物の酸が直接歯を溶かす現象なのです。

 

こういってしまうと、オレンジジュースがものすごく歯に悪いような気がしますが、酸性度の高い飲食物はオレンジジュースに限らずたくさんあります。フルーツ類は大体pH34ですし、野菜pH46、スポーツ飲料や乳酸菌飲料pH3.5、黒酢pH3.1、意外に栄養ドリンクもpH2.5と低めです。炭酸系の飲料は基本的に酸性度が強くpH2.2です。

(pH70を中性として数字が小さいほど酸性度が強いということになります。)

 

しかし、こうした酸性の飲食物を食べても普通は酸蝕にはなりません。唾液によって中和されるからです。

 

ところが、最近はペットボトルの普及やこまめな水分補給が推奨されている結果、スポーツ飲料など少しずつ何度にもわけて飲むことが多いようです。こういったダラダラ飲みは口の中に飲食物が入っている時間が長くなり、唾液による中和が追いつきません。

こうして、飲食物に長く接していた部分の歯が溶けていくのです。これが酸蝕です。

 

ワインのソムリエの方などは仕事柄一日に何度もワインを口にしますので、酸蝕になりやすいといわれています。

 

さらにこの患者さんの場合、ジュースを飲んだら歯磨き粉で磨くという習慣でした。

一見正しいようですが、例えばDVDなどみながら2・3時間かけてジュースを飲みます。するとエナメル質がとけてやわらかくなります。そこを歯磨き粉の研磨剤でごしごし磨くとどうでしょう?やわらかくなったエナメル質は簡単に削れてしまうのです。

 

これを一日に何度も繰り返していれば、あのくらい歯がえぐれても不思議はありません。

健康の気を使って、虫歯にもならないようにがんばったのに・・・、こんな悲しいことはないですね。

 

問題はダラダラ飲みと歯磨き粉の研磨剤です。

多くの歯磨き粉には茶渋などの色素沈着を落とすために研磨剤が含まれています。歯垢を落とす目的だけならば研磨剤は必要ありません。使いすぎはかえってエナメル質を削ってしまうだけです。

歯磨き粉の使用は一日一回で充分です。どうしても頻繁に使うなら研磨剤の入っていないものにしましょう。

前述のソムリエの方など、口にするのが液体だけであれば、水で口をゆすぐだけでもかまいません。

 

そして、糖分の高いもの、酸性度の高いもののダラダラ飲みはやめましょう。

 

確かに、スポーツの合間などこまめな水分補給は大切ですが、基本的には水が一番だと思います。

ミネラルなどの補給にスポーツ飲料を飲むことが多いようですが、スポーツ飲料は酸性度が高いだけでなく(pH3.5)、糖分の量も多く(500ml一本あたり25g=角砂糖5個)、この糖度の高さがむしろミネラルの吸収を妨げるので、スポーツ飲料を飲むのなら水で3倍くらいに薄めて飲むほうがよいでしょう。

 

酸蝕は、飲食物の酸自体より、そのとり方や生活環境のバランスによって発生します。

 

たとえば、飲食物でなくても、硫酸、硝酸、塩酸などを取り扱うメッキ工場、電池工場などで働いている人も、発生した酸に仕事中長時間触れつづけることによって酸蝕歯になる可能性があるといわれています。

また拒食症などで、頻繁に嘔吐するような場合も胃液の酸で酸蝕がおこります。

 

その他の要因としては、唾液の分泌量にも関係します。

前述のように酸性の飲食物はお口の中にのこっても、唾液によって中和され、唾液に含まれるカルシウムが歯に再沈着して溶けかけた歯を元の状態に再石灰化されます。

しかし、加齢や体調、睡眠時など唾液の分泌は減少します。

他には例の患者さんのような頻繁な歯磨き粉による歯磨きなど歯を磨耗させるような習慣・習癖も酸蝕を激化させます。歯ぎしりもその一つで、酸蝕と歯ぎしりが組み合わさるとかなりのダメージになります。

 

普通に歯ぎしりだけでもかなり歯は磨り減りますが、たとえば、睡眠時に歯ぎしりの癖がある人が、就寝前に寝酒を飲んでそのまま寝る、これは危険です。

酒類は酸性のものが多くワイン(pH 2.83.6、ビールH3.84.1)、睡眠中は唾液の分泌も減少しますので、飲料が中和されないままお口の中に残留します。この状態で歯ぎしりをすると、歯は溶かされながら擦(こす)られていることになって通常よりずっと早いペースで磨り減ってしまうのです。

ひどい方になると歯の神経が露出するまでになることがあります。なにしろ歯は体の他の組織と違って自己再生力がないので、一度減ったら増えることはなく、生涯減り続ける組織なのですから。

 

と、ずいぶん不安になるような話を長々書いてきましたが、酸蝕をふせぐことは、そう難しいことではありません。

要はだらだらと何時間もかけて飲食しないよう心がけることと、飲食物がお口の中に残らないようにすることです。真水をのんだり、うがいをしてもいいですし、キシリトールガムを噛んで唾液の分泌をうながすのも有効です。

なにより、酸蝕というものを知っているということが一番大切なのです。