長かった夏休みも終わり、早九月、皆さん夏休みの宿題はできましたか?
毎年のことながら、ちゃんと間に合うのかハラハラされる親御さんも多いと思います。特に自由研究は親子で頭を悩ませるところですね。
さて、今月はタイトルどおり久しぶりの症例紹介ですが、「夏休みの宿題編」ということで、自分自身の矯正治療を自由研究の研究テーマにしたお子さんのお話です。
事の起こりは2年前、もう何年か通院されている患者さんで、何気ないお母さんとの雑談中に例によって自由研究に困っているという話題になりました。
ちょっと特殊な症例でお互い色々苦労していたので、「せっかくならこれを自由研究にしたらどうですか?写真等の記録は差し上げますよ~」と、提案してみました。正直、この提案はいままでも患者さんにしてみたことはあるのですが、皆さん恥ずかしいのか、残念ながらなかなか採用されることはなかったのですが、今回意外にもお母さんが乗り気で「是非!!」とのことでしたので、これまでの治療経過と記録、今後の治療計画などをまとめて差し上げました。
ところが、その後「小学生の自由研究でやるのはもったいない」とのことで、残念ながらその年の発表は見送りになり、こちらもすっかり忘れていたのですが、この夏ついに満を持して発表することになったようです。ちょうど治療も一段落したところでしたので、追加の資料などを製作しました。
一口に矯正といっても研究の切り口によってはいろいろな方向からの掘り下げ方があると思いますが、今回は治療経過をテーマにするということで、もちろん夏休みの間だけで歯並びが完全に治るわけはありませんので、この場合は5年前の初診時からさかのぼって現在にいたるまでの経過を追っていきます。治療期間が比較的長い症例でしたので治療経過を追っただけでも十分なボリュームの研究になりました。
せっかくですので、当院でも経過を追ってご紹介したいと思います。
平成25年8月29日
初診
9歳。9月で10歳になるというのに、右上の前歯が生えて来ないというご相談でした。
通常6~7歳くらいで生えてくるのですが、左上の前歯かなり伸びているのに右はまったく生えていません。
そのほかにも、生えているほうの前歯が上下逆咬みになっている(反対咬合)、2番目の歯が生える隙間がない、などいくつかの問題がありますが、まずは生えてこない前歯が大問題です。
この場合二つの可能性が考えられます。
歯はあるようですが、ごちゃごちゃとしたものが写っています。
もう一枚部分的にクローズアップしたレントゲンを撮影しました。
赤い印の部分に「過剰歯」が2本あります。これが前歯の生えて来ない原因です。過剰歯とはその名のとおり本来の歯より余分に出来てしまった歯でこんな風に骨の中に小さな余分な歯が埋まっていることがあるのです。この過剰歯のせいで前歯が生えて来れなかったり、前歯に隙間ができたりします。(参考トピックス 2008年 3月 過剰歯による歯列不正とその治療 )
こういった過剰歯は、あっても邪魔なばかりで役に立ちませんので、抜歯してもらう必要があります。この抜歯はやや難易度が高いので、岡山の口腔外科の腕の良い先生に依頼しました。
翌月の九月に抜歯してもらい、経過観察します。
生えて来れなかった右上前歯がそのまま自然に生えて来てくれれば、先述の反対咬合などの治療にはいれます。
平成26年1月6日
定期健診に来院されましたが、まったく生えてくる気配がありません。
再度レントゲンを撮影。過剰歯はきれいになくなっていますが、右上の前歯三本が骨の中で重なって写っています。
より詳しく診るために、3DCTを撮影して立体的に見てみました。
まったく生えそうになかった前歯ですが、両隣の歯と位置関係からみると多少生えそうになってきていることがわかりました。
こちらは、もう少し自力生えてきてくれるのを待つとして、それまでの間に歯が生えるスペースの確保と左前歯の反対咬合の治療を開始するこにしました。
というのも、ここまでのレントゲンで、今後生え変わってくる永久歯が生える隙間がまったく足らないこと、また犬歯の永久歯の位置が隣の歯とかなり重なっていることなどがわかってきたからです。また、すでに生えている左前歯の根っこもやや短く、反対咬合をこのまま長く放置すると顎がゆがんで成長する恐れや、歯の根っこへの悪影響が心配されます。
平成26年2月2日
本格的に治療を開始するための検査。
同 3月2日
状況と治療計画の説明(取り外し式マウスピースEOAによる上下顎の拡大&反対咬合の改善)
EOA製作用の歯型採り。
(参考トピックス 2012年 12月 取り外し式装置 EOAはスゴイ!! その2 -EOAでなぜ治る?- )
同 3月31日
EOAセット 毎晩就寝時に装着、2ヶ月に1度のペースで来医院、調整
同 9月26日
萌出状況確認のため3DCT撮影
左前歯の反対咬合はEOAによって改善され、右上前歯1番・2番もかなり伸びてきていることが確認できます。
ただし歯が生えるスペースはまだまだたらず、このままでは凸凹に生えてしまいますので、引き続きEOAで顎の拡大を行います。
平成27年2月16日
右上歯ぐきが盛り上がって、1番の前歯が生えそうになってきました。
しかし、生えるスペースがまだ足りません。顎の拡大をスピードアップするために上顎の内側に固定式のQHという装置を使用することにしました。
QH製作準備。
同 3月21日
QHによる拡大開始(上顎)。
同 8月29日
下顎、QHによる拡大開始。
平成28年1月6日
上下の拡大が進み、右上1番の前歯が完全に萌出しました。左上2番目の歯も無事生え、前回のCTの時より顎が大きくなった分、凸凹の重なりも少なくなっています。
しかし、先述の骨の中で重なってスタンバイしていた犬歯が心配ですので、再度3DCT撮影。
左上犬歯は生えるスペースはまだ足らないものの、はえる位置には問題なくこのまままっすぐ生えそうです。
しかし、右上が・・・。
右上の犬歯は2番目の歯の真上にあり、重なったままです。
このままでは、生えてくることができません。
まだ生えてくる前に矯正装置をつけて引っ張りださなくてはいけません。
同 2月9日
右上犬歯 開窓&牽引開始
(参考トピックス 2010年 12月 移転歯2 治療例 )
平成29年1月6日
上顎犬歯~犬歯の萌出が完了しほぼまっすぐに並んだところです。
このまま、もう少し全体を整えれば完成かと思いきや・・・。
同 4月14日
前歯が再び反対咬合になってきています。
レントゲンを計測して最初の検査時の骨組みと比較したところ、上顎の発育がややにぶいのに対して下顎が前下方に発育していることがわかりました。
ちょうど13歳、身長の伸びとともに、下顎も伸びる。反対咬合の治療ではめずらしいことではありません。
反対咬合の治療では身長の伸びが止まるまでは油断せずに、経過観察をすることが大切なのです。
ということで、発育がにぶい上顎の発育を促す治療として取り外しのフェイスマスクという装置を使用することにしました。
同 5月15日
フェイスマスク開始
これは上顎の奥歯につけてある装置の突起にゴムをかけて前方に引っ張るという装置で、主に夜間就寝時に使用します。
またこの時点で上下顎の乳歯はすべて永久歯に生え変わったのですが、隙間が残ってすきっ歯になっています。この隙間分を上は前方に下は前歯を内側に移動すれば前歯の反対咬合が治りやすくなります。これには上下のすべての永久歯にブラケットをつけて全顎で治療するMBSという治療が望ましいのですが、そうなるとさすがに追加の治療費が必要になってきます。しかし、経済的になんとか乳歯期の治療費内でできるところまでで納めてほしいというご希望があり、これまでの治療もよく頑張ってくれていましたので、出来るかぎりご希望にそえるようにと、イレギュラーではありますが、以下のように一部だけ装置をつけてゴムをかけて隙間を閉じてみるという、ごく簡易的な方法を試してみることにしました。写真ではわかりにくいですが、下の歯の歯列に直接透明なゴムがかけてあります。
同 6月16日
同 9月12日
なんとか上記の方法のみですきっ歯が治り、上顎も充分前方発育しました!
これまでのお口の中についていた固定式の装置はすべて撤去し、新たに上の歯の内側に凸凹や隙間が戻らないよに固定し、顎の咬み合わせを安定させるマウスピースを製作し就寝時に使ってもらっています。
先述のように、反対咬合の治療では身長の伸びが止まるまでは油断禁物なのです。加えて最後の永臼歯12歳臼歯もまだ生えていません。
12歳臼歯まで全28本の歯がきちんと咬み合ってくれば、完成となります。
平成30年8月1日
装置撤去から約1年。全顎の治療をしていないので上下の真ん中はややずれていますが、並びも良く、上下の咬み合わせもよく安定しています。下の12歳臼歯が生え始めてきましたが、位置がやや微妙なので、なんとかいい位置に生えてくれるようケアしながら、注意観察中です。
毎年のことながら、ちゃんと間に合うのかハラハラされる親御さんも多いと思います。特に自由研究は親子で頭を悩ませるところですね。
さて、今月はタイトルどおり久しぶりの症例紹介ですが、「夏休みの宿題編」ということで、自分自身の矯正治療を自由研究の研究テーマにしたお子さんのお話です。
事の起こりは2年前、もう何年か通院されている患者さんで、何気ないお母さんとの雑談中に例によって自由研究に困っているという話題になりました。
ちょっと特殊な症例でお互い色々苦労していたので、「せっかくならこれを自由研究にしたらどうですか?写真等の記録は差し上げますよ~」と、提案してみました。正直、この提案はいままでも患者さんにしてみたことはあるのですが、皆さん恥ずかしいのか、残念ながらなかなか採用されることはなかったのですが、今回意外にもお母さんが乗り気で「是非!!」とのことでしたので、これまでの治療経過と記録、今後の治療計画などをまとめて差し上げました。
ところが、その後「小学生の自由研究でやるのはもったいない」とのことで、残念ながらその年の発表は見送りになり、こちらもすっかり忘れていたのですが、この夏ついに満を持して発表することになったようです。ちょうど治療も一段落したところでしたので、追加の資料などを製作しました。
一口に矯正といっても研究の切り口によってはいろいろな方向からの掘り下げ方があると思いますが、今回は治療経過をテーマにするということで、もちろん夏休みの間だけで歯並びが完全に治るわけはありませんので、この場合は5年前の初診時からさかのぼって現在にいたるまでの経過を追っていきます。治療期間が比較的長い症例でしたので治療経過を追っただけでも十分なボリュームの研究になりました。
せっかくですので、当院でも経過を追ってご紹介したいと思います。
平成25年8月29日
初診
9歳。9月で10歳になるというのに、右上の前歯が生えて来ないというご相談でした。
通常6~7歳くらいで生えてくるのですが、左上の前歯かなり伸びているのに右はまったく生えていません。
そのほかにも、生えているほうの前歯が上下逆咬みになっている(反対咬合)、2番目の歯が生える隙間がない、などいくつかの問題がありますが、まずは生えてこない前歯が大問題です。
この場合二つの可能性が考えられます。
- 生えるべき前歯がない(先天性欠如)
- 何かが生えるのを邪魔している
歯はあるようですが、ごちゃごちゃとしたものが写っています。
もう一枚部分的にクローズアップしたレントゲンを撮影しました。
赤い印の部分に「過剰歯」が2本あります。これが前歯の生えて来ない原因です。過剰歯とはその名のとおり本来の歯より余分に出来てしまった歯でこんな風に骨の中に小さな余分な歯が埋まっていることがあるのです。この過剰歯のせいで前歯が生えて来れなかったり、前歯に隙間ができたりします。(参考トピックス 2008年 3月 過剰歯による歯列不正とその治療 )
こういった過剰歯は、あっても邪魔なばかりで役に立ちませんので、抜歯してもらう必要があります。この抜歯はやや難易度が高いので、岡山の口腔外科の腕の良い先生に依頼しました。
翌月の九月に抜歯してもらい、経過観察します。
生えて来れなかった右上前歯がそのまま自然に生えて来てくれれば、先述の反対咬合などの治療にはいれます。
平成26年1月6日
定期健診に来院されましたが、まったく生えてくる気配がありません。
再度レントゲンを撮影。過剰歯はきれいになくなっていますが、右上の前歯三本が骨の中で重なって写っています。
より詳しく診るために、3DCTを撮影して立体的に見てみました。
まったく生えそうになかった前歯ですが、両隣の歯と位置関係からみると多少生えそうになってきていることがわかりました。
こちらは、もう少し自力生えてきてくれるのを待つとして、それまでの間に歯が生えるスペースの確保と左前歯の反対咬合の治療を開始するこにしました。
というのも、ここまでのレントゲンで、今後生え変わってくる永久歯が生える隙間がまったく足らないこと、また犬歯の永久歯の位置が隣の歯とかなり重なっていることなどがわかってきたからです。また、すでに生えている左前歯の根っこもやや短く、反対咬合をこのまま長く放置すると顎がゆがんで成長する恐れや、歯の根っこへの悪影響が心配されます。
平成26年2月2日
本格的に治療を開始するための検査。
同 3月2日
状況と治療計画の説明(取り外し式マウスピースEOAによる上下顎の拡大&反対咬合の改善)
EOA製作用の歯型採り。
(参考トピックス 2012年 12月 取り外し式装置 EOAはスゴイ!! その2 -EOAでなぜ治る?- )
同 3月31日
EOAセット 毎晩就寝時に装着、2ヶ月に1度のペースで来医院、調整
同 9月26日
萌出状況確認のため3DCT撮影
左前歯の反対咬合はEOAによって改善され、右上前歯1番・2番もかなり伸びてきていることが確認できます。
ただし歯が生えるスペースはまだまだたらず、このままでは凸凹に生えてしまいますので、引き続きEOAで顎の拡大を行います。
平成27年2月16日
右上歯ぐきが盛り上がって、1番の前歯が生えそうになってきました。
しかし、生えるスペースがまだ足りません。顎の拡大をスピードアップするために上顎の内側に固定式のQHという装置を使用することにしました。
QH製作準備。
同 3月21日
QHによる拡大開始(上顎)。
同 8月29日
下顎、QHによる拡大開始。
平成28年1月6日
上下の拡大が進み、右上1番の前歯が完全に萌出しました。左上2番目の歯も無事生え、前回のCTの時より顎が大きくなった分、凸凹の重なりも少なくなっています。
しかし、先述の骨の中で重なってスタンバイしていた犬歯が心配ですので、再度3DCT撮影。
左上犬歯は生えるスペースはまだ足らないものの、はえる位置には問題なくこのまままっすぐ生えそうです。
しかし、右上が・・・。
右上の犬歯は2番目の歯の真上にあり、重なったままです。
このままでは、生えてくることができません。
まだ生えてくる前に矯正装置をつけて引っ張りださなくてはいけません。
同 2月9日
右上犬歯 開窓&牽引開始
(参考トピックス 2010年 12月 移転歯2 治療例 )
平成29年1月6日
上顎犬歯~犬歯の萌出が完了しほぼまっすぐに並んだところです。
このまま、もう少し全体を整えれば完成かと思いきや・・・。
同 4月14日
前歯が再び反対咬合になってきています。
レントゲンを計測して最初の検査時の骨組みと比較したところ、上顎の発育がややにぶいのに対して下顎が前下方に発育していることがわかりました。
ちょうど13歳、身長の伸びとともに、下顎も伸びる。反対咬合の治療ではめずらしいことではありません。
反対咬合の治療では身長の伸びが止まるまでは油断せずに、経過観察をすることが大切なのです。
ということで、発育がにぶい上顎の発育を促す治療として取り外しのフェイスマスクという装置を使用することにしました。
同 5月15日
フェイスマスク開始
これは上顎の奥歯につけてある装置の突起にゴムをかけて前方に引っ張るという装置で、主に夜間就寝時に使用します。
またこの時点で上下顎の乳歯はすべて永久歯に生え変わったのですが、隙間が残ってすきっ歯になっています。この隙間分を上は前方に下は前歯を内側に移動すれば前歯の反対咬合が治りやすくなります。これには上下のすべての永久歯にブラケットをつけて全顎で治療するMBSという治療が望ましいのですが、そうなるとさすがに追加の治療費が必要になってきます。しかし、経済的になんとか乳歯期の治療費内でできるところまでで納めてほしいというご希望があり、これまでの治療もよく頑張ってくれていましたので、出来るかぎりご希望にそえるようにと、イレギュラーではありますが、以下のように一部だけ装置をつけてゴムをかけて隙間を閉じてみるという、ごく簡易的な方法を試してみることにしました。写真ではわかりにくいですが、下の歯の歯列に直接透明なゴムがかけてあります。
同 6月16日
同 9月12日
なんとか上記の方法のみですきっ歯が治り、上顎も充分前方発育しました!
これまでのお口の中についていた固定式の装置はすべて撤去し、新たに上の歯の内側に凸凹や隙間が戻らないよに固定し、顎の咬み合わせを安定させるマウスピースを製作し就寝時に使ってもらっています。
先述のように、反対咬合の治療では身長の伸びが止まるまでは油断禁物なのです。加えて最後の永臼歯12歳臼歯もまだ生えていません。
12歳臼歯まで全28本の歯がきちんと咬み合ってくれば、完成となります。
平成30年8月1日
装置撤去から約1年。全顎の治療をしていないので上下の真ん中はややずれていますが、並びも良く、上下の咬み合わせもよく安定しています。下の12歳臼歯が生え始めてきましたが、位置がやや微妙なので、なんとかいい位置に生えてくれるようケアしながら、注意観察中です。