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vol.14 原因不明の歯の痛み・・・その意外な原因は?

 歯が痛い・・・といえば『虫歯』と皆さん思い込んでいませんか?

当院でも、患者さんから「虫歯があるので診てください」といわれることがよくあります。しかし、実際に調べてみると虫歯は無い、これもまたよくあることです。

 

たいていの場合は知覚過敏であったり、矯正治療によって歯の神経が過敏になっておこる痛みだったりします。

これらは痛みの質としては比較的軽度で、知覚過敏の専用の薬や矯正治療の力を調整することで緩和することができます。(詳しくはこちらをご参照ください→知覚過敏2024年 2月 知覚過敏の皆さんへ

しかし、今月お話しするのはこういった歯の問題以外で引き起こされる、歯の痛みについてのお話です。

 

歯が痛いのに、歯には問題がない・・・?それはつまり、いくら痛い歯を治療しても痛みは取れないということです。痛みがなかなか治らず、歯の被せを何度もつくりなおしたり、歯根の治療を繰り返したり歯科医院自体何軒も回っているといった話を聞いたことはないでしょうか?

最悪のパターンとして、痛みから解放されたいあまり歯を抜いてしまう場合もあります。それでも、もし、そもそもの痛みの原因が歯ではない場合、痛みから解放されるとは限りません。

なんだか不思議な話です。いったいどういうことなのでしょう?

 

まず「痛み」とは「痛みを発生する原因の場所」・「痛みを伝達する経路」・「痛みを受け止めて認識する脳の中枢」から成り立ちます。通常は虫歯などの患部から痛みを発生し、神経を通って中枢の脳に痛み信号が到達し、脳が痛みを認識しますが、この「痛みを伝達する経路」に問題が発生すると、実際の「痛みを発生する原因の場所」とは違った場所を「痛い」と認識してしまうのです。また、や「痛みを認識する脳」の方に問題が起こると、通常では問題のないレベルの信号でも「痛い」と認識してしまう場合があります。

 

このように原因の場所と痛みを感じる場所の相違というのは、皆さんよくご存じの例でいうと、かき氷を食べたときに頭が痛くなった経験のある方は多いのではないでしょうか?冷刺激があったのはお口の中にもかかわらず、お口から離れた場所であるこめかみや後頭部が痛くなるという、考えてみれば不思議な現象ですが、これは「アイスクリーム頭痛」と呼ばれ、お口のなかからの神経伝達経路である三叉神経が他の場所からの刺激と勘違いしてしまうことや、脳内の血管が冷刺激に反応して膨張して、痛みを感じると言われています。

 

似たような事象が程度の差はあるものの、体の各所でも起こりうるということです。特に歯科分野では「非歯原性歯痛」といって様々な原因で引き起こされ歯痛があります。

 

非歯原性歯痛の分類 

一般社団法人 日本口腔顔面痛学会“原因不明の歯痛”の原因(非歯原性歯痛)より

 

1.  筋・筋膜痛による歯痛

【痛みの特徴】 

数日~数週間前から、軽度の疼くような鈍い痛みが歯に生じている。どの歯が痛いのかよくわからない.痛みは日常生活には支障はない。

【考えられる病気】

筋・筋膜性歯痛

 

慢性的な筋肉への負担により筋が疲労した結果、筋肉が拘縮してスジのようなもの(索状硬結)が生じ、さらにその中にトリガーポイントと呼ばれるしこりが形成され、それが原因となって歯痛が発生します。非歯原性歯痛ではもっとも多く(約6割)、症状としては,患歯の特定が困難・自発性の鈍痛・持続性の痛みなどです。普通の虫歯などの歯原性歯痛(歯が原因の歯痛)と混同されやすく、誤って麻酔抜髄や抜歯処置が行われてしまう可能性があり注意が必要です。

上下歯列の接触癖の改善やマッサージを指導が有効です。痛み止めとしては、ロキソニンやボルタレンは筋膜痛による歯痛には効きにくいため、中枢に作用するアセトアミノフェンを用います。(ロキソニンは患部の炎症を治める作用なので、炎症が原因でない場合効きにくい)

 

2.  数秒間発作的に生じる歯痛(発作性神経障害性疼痛による歯痛)

【痛みの特徴】 

顔面や喉の瞬間的な激痛,電気が走り抜けるような,刺されるような.うずくまる様な痛み.片側性

【考えられる病気】 

①顔面・口腔内の場合三叉神経通(さんさしんけいつう)

②咽頭や耳のあたり舌咽神経痛(ぜついんしんけいつう)

 

何らかの理由で神経の周りのカバーが剥がれ、いつもは痛みを起こさないような小さな刺激で強い歯痛が発生する症状です。稀な疾患ではなく、歯を刺激しなくても顔面や口腔内の一部を刺激することで歯痛が発生することもあります。
多くは理由なく突然始まり、発作的に数秒から数分の強い歯痛が生じます。電撃痛と表現されるような、ビリッとした痛みを訴えます。なにもせず顔を動かしたり触ったりしなければ痛みは生じませんが、食事・飲水・会話・歯磨き・髭剃りなどで痛みが生じ、日常生活が困難になります。片側に出現することがほとんどで、あたかもむし歯の痛みのように感じる場合もあるため、歯の疾患との鑑別が必要です。こういった発作性神経障害性疼痛による歯痛に、通常の歯科治療をおこなっても痛みは治まりません。

治療は薬物療法を行う場合が多く、カルバマゼピンなどの抗てんかん薬が使用されますが、薬効の出方に個人差があるため、効果と副作用のバランスをよく見ながら服用量を増減しなければなりません。

 

3.  歯科治療後に長引く痛み,帯状疱疹に伴って生じる歯痛(持続性神経障害性疼痛による歯痛)

【痛みの特徴】 

ある日突然,または歯科治療後から,24時間間断なく続く痛みが歯に発現した.どの歯が痛いか,はっきりわかる.

【考えられる病気】

 急性の場合(痛みは1週間以内に発現)帯状疱疹性歯痛

帯状疱疹の初期症状として,歯の痛みが持続的に続くことがあります.臨床症状としては,ウイルスが歯の神経まで達すると虫歯のない歯にズキズキとした痛みとして感じられ,数日の間に強い痛みへと移行します.


 慢性の場合(痛みは数か月以上持続している)外傷性神経障害性疼痛

 

親知らずの抜歯やインプラント治療などの手術で顎や歯に走っている神経が傷ついた際に,外傷性神経障害性疼痛が生じことがあります.歯や歯肉を軽くさわっただけでも「ピリピリ,ビリビリ,ジンジン」とした痛みを誘発します.

歯科治療後の神経障害性疼痛による歯痛の治療法としては,神経障害性疼痛や線維筋痛症に対する疼痛治療剤(プレガバリン)と抗うつ薬の一部が第一選択薬とされています.

 

4.  神経血管性頭痛による歯痛(群発頭痛や片頭痛などに伴って生じる歯痛) 
【痛みの特徴】 

歯や顔面に発作性の痛みが生じ,数時間持続して消失する.発作時以外に痛みはない.

【考えられる病気】

①片頭痛もちの人で片頭痛の発作中に生じる場合顔面片頭痛
一日に数度発作性の歯痛(激痛)が片側の歯や顔面に生じる,痛い側に涙や鼻水が出る群発頭痛およびその類似疾患(TACs)

                  *群発頭痛 : 1-2年に一度群発期が巡ってくると毎日激痛発作が生じる頭痛.

 

群発頭痛や片頭痛では、脳の血管が一時的な炎症を起こすために頭痛が生じます.脳の血管に分布する神経は、顔面の痛みの神経と合流するため、頭痛と同時に歯痛が生じることがあります.

 

5.  上顎洞疾患による歯痛(上顎洞の病気により生じる歯痛)
【痛みの特徴】 

数日前から上顎の奥歯に持続性の痛みが生じている.通常片側性.

【考えられる病気】 

数日前から風邪を引いている,または痛い側の鼻が詰まっている上顎洞疾患による歯痛

 

頭蓋骨の中の鼻の左右両側に位置する空洞を上顎洞といい,上顎洞疾患による歯痛とは上顎洞内にできた病気が原因で近接する歯に痛みが生じるもので、原因となっている上顎洞の病気を治療することで,治療に伴って歯痛は和らいできます.

 

6.  心臓疾患による歯痛
【痛みの特徴】 

歩いたり運動したりすると下顎に痛みが生じる.痛みは10分ほどで消失する.両側性のことが多い.

【考えられる病気】 

通常中年以上心臓疾患による歯痛(狭心症や心筋梗塞による歯痛)

 

狭心症や心筋梗塞などの急性冠症候群による虚血性心疾患により,歯痛が生じることがあります.虚血性心疾患の発作時,患者の38%に顔面の痛みが,4%に歯痛が生じると報告されています.多くの場合,胸の痛みと顔面の痛み,歯痛が同時に生じますが,稀に胸の痛みがなく歯痛のみが症状として現れることがあります.
心臓疾患による歯痛の特徴は,胸の痛みや不快感と連動した強い歯痛であること,圧迫痛や灼熱痛であること,半数以上は左右どちらかでなく両方の顎に痛みが生じること,痛む時間は数分~20分程度であること,運動時,興奮時,食事時に歯痛が生じ安静にしていると痛みは軽減すること,などが挙げられます.

 

7.  精神疾患または心理社会的要因による歯痛
【痛みの特徴】 

慢性的な持続痛ですが,食事や睡眠,楽しい時間は痛みが軽減することもあります.心理社会的要因(ストレス)が加わった場合に生じる原因不明の痛み.うつ病や不安症,統合失調症などの精神疾患がある人に発現した原因不明の痛み.

【考えられる病気】 

さまざまな心理社会的要因(ストレス)や精神疾患に起因する,脳の変調で生じた痛み.

 

昨今の脳科学研究でこれまで心因性と考えられてきたものに,脳に何らかの生物学的変化が起こっていることがわかりました.「心の痛み」は怪我などの「身体の痛み」と同じ脳の領域を活性化します.心が痛む時は,脳も痛みを感じているのです.

 

8.  特発性歯痛:X線画像などには明らかな異常が認められない“原因不明の歯痛”
【痛みの特徴】 

歯に慢性の痛みが生じ,起きている間中持続する.歯科治療を繰り返したが全く効果がない.
食事の時には痛みは改善する.

【考えられる病気】 

特発性歯痛(旧非定型歯痛)

 

X線画像などには明らかな異常が認められない原因不明の歯痛で,抜髄(歯の神経を抜くこと)や根の治療を何ヶ月も続けているのに,いっこうに痛みが引かない」という病気です.男女比では1対9と圧倒的に女性が多く平均受診年齢は55歳です.その痛みは「じんじん,じわじわ」と表現されることが多く,目が覚めている間中続きます.虫歯の痛みと非常によく似た症状を示しますが、通常の歯の痛みであれば痛み方に変動があり,時間と共に悪くなったりよくなったりしますが,特発性歯痛では痛みは一定で数週間,数ヶ月以上も変化なく続きます。また,特発性歯痛では冷温水や歯を叩くなどの局所刺激は痛みに影響を与えず食事をするにも支障がありません.(むしろ食事中は痛みが消失するという患者さんが多いです)しかし長引く痛みから患者さんの苦痛も大きく,最終的に抜歯になることもありますが、歯には原因がないため歯科治療や手術をしても効果はありません.むしろこのような治療をすればするほど状態が悪化する傾向があります.また痛み止めの薬やブロック注射も効果はありません.治療は薬物療法(抗うつ薬)及び認知療法(痛みに注意を向け過ぎないなど)の2本柱で行います

 

9.  その他の様々な疾患により生じる歯痛

歯の痛みを伝えている体の一部に, 様々な疾患によって以下のような状況が生じると,体は歯の痛みと勘違いして「非歯原性歯痛」を引き起こす可能性があります.

  • 痛みの原因が生じた部位の神経とは異なる神経が支配している領域に痛みが拡散する(関連痛)
  • 痛みを感じている部位自体ではなく,そこに関係している痛みの神経(末梢神経または中枢神経)が傷害を受け,傷害部位とは別の部位に痛みが生じる(神経障害)
  • 中枢での痛み情報の処理の異常

この中で悪性腫瘍に関連する歯痛は稀ではなく,生命予後を左右するため,特に鑑別が重要です.

 

【考えられる病気:悪性腫瘍】

口腔粘膜,特に歯肉や口腔前庭,口腔底,上顎洞のがんは歯の痛みのように感じられることがあります.

鼻咽頭がんは顔面痛,開口障害,開口時の顎の偏位,耳の痛み,頭痛として感じられ, 顎関節症や耳下腺の病変,歯の炎症が原因の開口障害と誤認されることがあります.

上顎洞がんは上顎洞内にできる悪性腫瘍のことで,36%の人に上顎洞がんの初発症状として歯痛が生じることが報告されています.

悪性リンパ腫や白血病なども,骨膜や歯肉に浸潤して歯や歯周組織の痛みと誤認される事があります.

・骨溶性の疾患である多発性骨髄腫ではレントゲンで骨吸収がみられ歯痛が生じます.

乳がん,肺がん,前立腺がんは口腔顔面領域への転移も多く,顎骨に転移した場合は痛み(39%)や感覚異常(23%)に生じます.転移がんでなくても迷走神経を介して口腔顔面領域に痛みが発現することがあります.この場合は片側性でうずくようなズキズキした持続性の痛みが歯痛と誤認されることがあります.

 

【考えられる病気:血管炎】

高安動脈炎(大動脈炎症候群)や巨細胞性動脈炎の関連痛で歯痛が生じる場合があります.
高安動脈炎(大動脈炎症候群)は,胸部・腹部大動脈などの比較的太い動脈の慢性炎症継続により血管の狭窄や閉塞を起こす疾患です.炎症の部位により様々な症状がみられます.若い女性に好発します(男女比 18).血圧の左右差が大きい,脈が触れないなどの症状がみられます.初期には発熱,全身倦怠感,食欲不振などがみられます.その後,頭部を栄養する血管が障害を受けた場合は, めまい,立ちくらみ,脳梗塞,失明,難聴,耳鳴り,歯痛,頚部痛など様々な症状が認められます.
巨細胞性動脈炎は高齢者の病気で, 50歳以上に発症します(男女比 123).咀嚼筋を栄養する動脈が罹患した場合は,食事中に顎の筋肉が痛くて食事を中断せざるを得なくなったり(顎跛行),歯痛が生じたりすることも報告されています.眼動脈が罹患し,診断が遅れると失明する危険性がありますので注意が必要です.

 

【考えられる病気:薬物の副作用】

統合失調症などの治療で用いられる抗精神病薬(ハロペリドール,リスペリドン)の主な副作用として,振戦(手指の震え),筋肉のこわばり,ジストニア(筋緊張が異常となり強直・捻転が生じ奇妙な姿勢となる)などがありますが,知覚過敏様の歯痛(44%)も報告されています.
悪性腫瘍の化学療法による細胞毒作用によって末梢神経がダメージを受け,歯髄炎のような(ズキズキした)歯痛が生じることがあります.

 

10.  舌痛症と口腔内灼熱症候群
【痛みの特徴】 

口腔粘膜にやけどをしたようなヒリヒリする痛みが一日中持続している.痛みは食事中には改善する.ガンではないかと心配.

【考えられる病気】

 舌の先端や舌の側縁舌痛症,

舌痛症は正常な舌の先端や側縁にヒリヒリする持続性の痛みが起こるという病気です.痛みの程度は, 多くは軽度から中等度で見た目には異常がありません.食事中は痛みを感じることはほとんどありません.食べることで脳の感覚がごまかされて通常感じている痛みが感じられなくなっている可能性があると考えられています.症状が現れたきっかけを振り返ると不安(ガンではないか?)やストレスを強く感じる出来事があったという患者さんも多い事が知られています. 

 

②舌や口蓋,口唇粘膜の内側,歯肉などの広範囲に痛みが生じている場合口腔内灼熱症候

舌痛症とよく似た病気ですが口腔内灼熱症候群という病気があり,舌だけでなく口唇(上唇と下唇),上アゴ,歯肉,口の中全体の粘膜がヒリヒリとやけどをした後のように痛むなどの症状を示します.

 

舌痛症や口腔内灼熱症候群の有病率は0.7〜5.0 %という報告があり,男女比は1対9で女性に多く,4060代の中高年に多く見られます
カンジダ(カビの一種)や鉄欠乏貧血などの器質的異常が同じような痛みを感じることがありますが,これらの器質的異常が存在する場合には食事時に醤油や味の濃いものがしみます.血液検査(貧血や栄養素,内分泌疾患の有無)や,カンジダなどのカビが生えていないかを調べるための培養検査など行いこういった原因が見つかった場合には原因となっている疾患の治療していくことになります.

明らかな原因が認められない場合、薬物療法と認知療法の2本柱になります.薬物療法としては三環形抗うつ薬(トリプタノール)やSNRI(サインバルタ)などの服用,認知療法としてはガンではないかという不安などがきっかけになっている場合はその不安の除去,ストレスと症状の関連の認知,また痛みから注意をそらす(コーピング)方法の習得などが主になってきます.

 

*原因や治療法などの詳細は上記の一般社団法人 日本口腔顔面痛学会のホームページを参照ください。

一般社団法人日本口腔顔面痛学会ホームページ

日本いたみ財団説明動画Youtube


 

ずいぶんいろいろなケースがありましたね。

また、これらは「歯原性」、つまり歯が原因でない痛みでしたが、「歯原性異所性痛」というケースもあります。

例えば、右の奥歯が痛いが虫歯は見られない。実際には右の奥歯が虫歯になっている。というケースで、どちらも元をたどると同じ三叉神経につながっており一箇所からの痛み刺激が他の部分にも共鳴して、どこが震源地かわからなくなり、脳内で誤認がおこってしまう状態です。

 

こういった原因とは違った場所でおこる痛みは『異所性疼痛(いしょせいとうつう)』(異なる場所からくる痛み)といって、病気や痛みの現れ方によっては『関連痛』や『放散痛』と呼ばれることもあります。原因の特定が難しい上に、あまり一般に知られていません。このことが歯科おけるトラブルや悲劇につながることがままあります。

 

たとえば・・・、

 ① ある患者さんが奥歯に痛みを訴えて歯科を受診します。

 ② 検査の結果、奥歯にごく小さな虫歯がみつかります。

 ③ 診たところ進行性の状態ではなく、歯磨きも良く出来ているので、このまま温存したほうが下手に削ってしまうより歯としては長持ちするような状態にみえます。

 ④ しかし、患者さんからは痛みをどうにかしてほしいので虫歯の治療を希望されます。歯科医は出来るだけ歯質を残すよう最低限削って治療します。(歯は削ってしまうと再生しないので最近ではこういった最低限の切削で行うMIという治療が主流になってきています)

 ⑤ それでも痛みは止まりません。再治療を希望されます。

 ⑥ 痛みの具合を聞くとズッキンズッキンする感じとのこと。虫歯菌が歯の神経に入ってしまっていたのかと歯の神経を抜いて治療します。

 ⑦ まだ、痛みは止まりません。

 ⑧ 歯の神経の管の処置が甘かったかともう一度再治療します。

 ⑨ それでも痛みは止まりません。

 ⑩レントゲンでも異常は見られず、いろいろ検査しましたが歯に異常は見つかりません。患者さんからはもう痛くたまらないから歯ごと抜いてくれといわれます。

 

 

 

さて、この後この患者さんはどうなるでしょう?

皆さんだったらどうしますか?

 

この歯の痛み本当に虫歯が原因でしょうか?もちろん、歯の神経ごくわずかな細菌の残存で痛みが出ている可能性はゼロではありませんが、ズッキン・ズッキンする痛みは群発頭痛や心疾患の異所性疼痛とも似ています。もし群発頭痛なら、群発期が終わったら歯の痛みも治まります。歯自体に問題はなかったので歯の神経はまったく無駄に抜いたことになります。また、もし歯ごと抜いてしまっても、何年か後に次の群発期がやってきたらまた同じことを繰り返すことになるかも知れません。

しかも、慢性的な痛みは中枢神経で痛覚の過敏化(通常では考えられない些細な刺激にも痛みを感じてしまうこと)や関連痛(同じ神経の支配下にある他の部位に発生する痛み)を引き起こし、痛みの悪循環をおこしてしまいます。

(この関連痛が原因部位の特定を難しくし、過敏化で興奮状態にある患者さんはコミュニケーションがとりにくくなります。)

 

もちろん、これは例え話で最悪のシナリオです。しかし、発生率が低いとはいえ確実にこういう疾患は存在します。

しかも上記の例のように患者さんも歯科医も気づいていないだけという症例も潜在的に存在していると思います。

 

ここで大切なのは、まず、こういう「異所性疼痛というものがある」ということを知っていることと、医師と患者が普段から充分なコミュニケーションをとるということです。

例えば、帯状疱疹によって生ずる歯痛の場合、帯状疱疹に罹ったことがあるかどうかは患者さんから聞かない限りは まずわからないことです。患者さんのほうでも、まさか帯状疱疹と歯が関係していると思いもしなければ、あえて歯科でも話さない可能性があります。

また、歯科サイドでも全身の疾患については専門外で知識の少ない部分があり、こういった異所性疼痛の発見の遅れにも繋がっていると思います。

われわれ歯科は「歯痛=虫歯」という発想のみにとらわれず、あらゆる角度から患者さんの痛みと向き合い、他分野との連携も深めていく必要がありますし、みなさんも「歯とは関係ないから・・・」を思わずにいろんな話をしていただければと思います。全身の疾患や、「痛い」と一口にいっても、痛みの質やいつどんな時にどのくらいの時間痛いかなどは、患者さん自身にしか知りえない貴重な情報です。異所性疼痛の発見には、これらの情報が不可欠ですので。

 

 

<自分の痛みの情報を整理してみよう>

  • 痛みの場所は?

はっきりわからない・痛い場所がはっきりしている・歯の頭の方・歯ぐき際・顎の中の歯の根っこのあたり

  • 痛みの質は?

どんより・ずーん・ズキズキ持続する・瞬間的にズキッとする・シクッと滲みる

  • 何日くらい前から痛い?
  • 痛くなり始めたきっかけは?

仕事や生活環境の変化・病気・歯科治療・ストレス

  • ずっと痛いのか?痛みに波はあるか。痛いときと痛くない時があるならどんな時に痛い?痛くない時はどんな時?

朝・晩・食事の時・何かをした時・冷刺激・・何もしていない時でも痛い

  • 歯痛以外に気になる全身症状は?

風邪・帯状疱疹・心疾患・頭痛・けが・うつ・肩こり・がん